今回は、永久歯が生えてこない症例(先天性欠如歯)をご紹介します。

先天性欠如歯の原因は今だあきらかになっておらず、遺伝や全身疾患などさまざまなことが考えられていますが、因果関係がはっきりしていないため、予防ができないという現状です。生まれつき歯の本数が足りない子は、年々増えている傾向にあるとも言われています。歯の本数が正しいかどうか、お子さん本人が気づくということは稀で、学校の歯科検診で指摘を受けて親御さんが心配になって来院…といったケースも少なくありません。

初診カウンセリング時で親御さんからは「乳歯の段階で出っ歯気味であることと下の歯のすきっ歯もあり、将来の歯並びが心配…」というご相談をいただきましたが、詳しく調べると、下顎の左右1番目の歯と右下の5番目の合計3本の先天性欠如であることがわかりました。

乳歯の時期から、かみ合わせを考慮し、床矯正を開始していきました。

初診時のパノラマ写真をご覧いただくと本来、乳歯の下にあるはずの永久歯が写っていないことがおわかりいただけるかと思います。

先天性欠如歯のリスクは、歯の本数が少ないため、永久歯になった時に将来的にすきっ歯になってしまう可能性が高いということです。それを防止するには、インプラントやブリッジなどで歯を増やし、隙間を閉じる必要性があります。今回は乳歯の段階で先天性欠如歯が3本があることが判明したため、どのように隙間をなくしていくか?ということを念頭に治療計画を立てていきました。

治療方法の1つとして、隙間ができないように乳歯をそのまま残しておくという方法もありますが、乳歯はいずれ抜けてしまうということが明白なため、今回はかみ合わせや総合的な観点から右下の6番目の永久歯を前に移動させる方法を選択しました。抜歯は、一度に抜歯をするのではなく、あえて乳歯を半分に分割し、右下5番目の先天性欠如歯の部位を後ろの6番目の歯を近心移動(歯の中央に向かう方向へ移動させること)により、隙間を徐々に閉じていくように補いました。治療経過とともに詳細をお伝えしていきます。

 

■初診から3年経過

まず、乳歯から永久歯に生え変わるまでの経過です。

初診から3年経過し、乳歯の段階で気になっていた、出っ歯は一見すると、解消されているように見えます。しかし、パノラマ写真をよく見ると犬歯(前から3番目の歯)が生えるスペースがない状況であることがわかり、このままだと犬歯が歯茎に埋まったままになるか、八重歯になるという状況だと想定できました。

 

■初診から5年経過

初診から5年経過した時の歯並びです。口を大きく開けて笑わない限り、歯並びがガタガタであるとは、周りの人は気づかないかもしれません。

横からみると歯茎から犬歯の先がポコっとでている事がわかると思います。

下顎については、右下5番目の先天性欠如歯の隣り合う歯が永久歯に生え変わりました。

 

■初診から6年経過

初診から6年経過した時の歯並びです。

上の歯は八重歯になっています。この八重歯の改善をするため、抜歯を行う必要がありました。下の歯の本数とバランスをとるために、上の歯の4番目の歯を2本抜歯しました。通常の抜歯は、上下4番目の歯を4本抜歯するのがスタンダードと言われています。しかし、今回は下の歯に先天性欠如歯があるため、変則的な方法で、右下5番目の乳歯を分割し抜歯し、その後ろにある6番目の歯を少しずつ移動させています。

パノラマ写真をご覧いただくと、後ろの6番目の歯が中央に移動していることがおわかりいただけるかと思います。永久歯の段階でセルフライゲーション型セラミックブラケット装置(デーモンクリア)を使用し、歯を少しずつ移動させる方法を選択しました。

 

■初診から7年経過(治療終了時)

治療終了時の歯並びです。歯の移動のスピードや隙間の状態を見ながら、残存乳歯を分割抜歯し、歯の位置を少しずつ移動させていきました。

上の歯の八重歯も正しい位置に配置され、下の歯も隙間がない状態になりました。

今回の症例のように、お子さんの歯の本数が足りない場合や歯の隙間が気になる場合には早めのご相談が望ましいといえます。

先天性欠損歯は1〜2本である場合が多いですが、特に問題を起こさないケースもありますので、「歯が少ないから大変!」と焦らないでくださいね。まずはお子さんの歯の現状をしっかり知るということが大切だと思います。

先天性欠損歯の本数や起こる場所によっては歯並びが崩れる原因になったり、見た目やかみ合わせに支障をきたしたりすることがあるため、お子さんのうちから経過を見ていくことが望ましいと言えます。「お子さん本人が歯並びを気にするまで待つ」という方法もありますが、歯の本数が少ないことで隙間ができると、隣接した歯が斜めに生えたり、周りの歯に影響を及ぼす可能性もあります。また、隙間があることで汚れが付着しやすく、虫歯や歯周病などのリスクも上げてしまうこともあるため、ブラッシングもみてあげる必要があります。

今回は早い段階でのご相談だったため、将来的なブリッジやインプラントを回避できただけでなく、お子さん本人にも将来の歯並びのことや現状をご理解いただき、治療に対しても非常に協力的だったため、良好な結果となりました。

治療は長期に渡りましたが、お子さんの成長を親御さんと一緒にみれたことや、季節の変化を毎年一緒に楽しめたことは、大変うれしく思います。

また定期メンテナンスで笑顔で会える日を楽しみにしています。

●主訴
乳歯の段階で下の歯の本数が足りず、下の歯の隙間が気になる。上の歯は出っ歯ぎみで、将来大人の歯並びが心配。

●診断名あるいは主な症状
上顎叢生
下顎先天性欠如

●年齢
8歳3ヶ月

●治療に用いた主な装置
セルフライゲーション型セラミックブラケット装置(デーモンクリア)

●抜歯部位
上の歯の4番目の歯を2本抜歯
右下5番目の乳歯を分割し抜歯

●治療期間
約7年

●メンテナンス頻度
月1回

●治療費用(税抜)
約800,000円(2019年11月時点)

●治療を行う上での注意点(リスク・副作用)

矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について(改訂)

日本矯正歯科専門医機関の規定により、当院では矯正治療を行う上で、リスクや副作用を明示しています。

  1. 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いですが個人差があります。
  2. 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性がありますが、その場合には改めて治療期間のスケジュール作成等をいたします。
  3. 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や治療期間に影響することがあります。
  4. 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。程度によっては、虫歯治療を優先します。
  5. 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
  6. ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
  7. ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
  8. 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。その場合には装置の変更等を行います。
  9. 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
  10. 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
  11. 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
  12. 矯正装置を誤飲する可能性があります。
  13. 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
  14. 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。保定装置とは>>
  15. 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
  16. あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
  17. 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
  18. 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。